『みんなが「学び」の主人公です』
古賀東小学校で大切にされているこの言葉には、子どもも教職員も、ともに未来をつくる当事者であるという思いが込められています。
今回お話を伺ったのは、古賀市立古賀東小学校の校長・松本 剛先生。古賀市で教諭として長く勤務したのち、千鳥小学校の校長を経て、今年度から古賀東小学校の校長を務めています。
児童数552人(取材時点)を抱える市内でも大規模な小学校のひとつで、どのような教育が行われているのか。また、古賀市全体の教育環境にはどのような特徴があるのか。現場の視点からお話を伺いました。
子どもも教師も“当事者”。古賀東小学校の学びのかたち

ー 古賀東小学校はどのような学校ですか?
松本先生:古賀市内でも大規模な小学校のひとつです。校区が広く、昔からの地域と新しい住宅地が混在しているため、多様な環境で育つ子どもたちが通っています。現在は児童数552人で、各学年おおむね3クラス、特別支援学級は9クラスあります。

ー 学校として大切にしている考え方を教えてください。
松本先生:古賀東小学校では「共に学び、共に未来をつくる」を経営理念に『「古賀東」を愛し、未来に向けて生き方をみがく子ども』という教育目標のもと、教育活動を行っています。子どもたちは未来の創り手であり、その成長を支えるのが私たち大人の役割です。子どもも教職員も、ともに未来をつくる当事者として関わっていくことを大事にしています。また、『子どもが「学び」の主人公』であることも重視しています。教師が一方的に教えるのではなく、子どもが主体的に学び、教師は伴走する立場で関わっていく——そんな学びのかたちを目指しています。
こうした考え方は、古賀東小学校に限らず、今の学校教育全体が目指している方向でもあるそうです。その中で古賀東小学校では、『みんなが「学び」の主人公』という言葉を合言葉のように共有し、日々の学校づくりに落とし込んでいます。

ー 目標や理念を子どもたちと共有するために、どんな工夫をされていますか?
松本先生:子どもと教師が同じ内容を共有できるよう、子どもが分かる言葉にした上でひらがなで書いたり、難しい漢字にはルビをふったりしています。1年生でも理解できるようにすることで、子どもたち自身が目標を自分ごととして捉えられるようにしたいと考えています。学校の目標は、教師だけが知っているものではなく、子どもも含めて全員で共有することが大切です。教師だけが目指す方向を知っていて、子どもがそれを知らないままでは、「主人公」とは言えないと思うんです。だからこそ、子どもたちにも分かる言葉で伝えることを大切にしています。
校長室の一角には、目指す子ども像(教育目標)が大きく掲示されています。
朝礼などのオンライン放送時には、この場所を背景に行われているそうです。子どもたちの目に触れやすい形で伝えることで、日々の中で自然と共有されていく工夫が感じられました。
週4日は5時間授業。「放課後の時間」を生み出す仕組み
ー 古賀市の教育環境の特徴や取り組みについて教えてください。
松本先生:「子どもファースト」という考え方がベースにあります。そのひとつが授業時間の編成で、古賀市では週5日のうち4日が5時間授業、1日が6時間授業となっています。一般的には6時間授業が多い中で、この形は特徴的だと思います。小学校だけでなく中学校も同様で、古賀市の子どもたちは比較的早い時間に下校します。また、古賀市では約10年前から3学期制を2学期制に移行しており、年間を通した時間の使い方を見直してきました。子どもたちの放課後の時間も含めて、一日の過ごし方全体を大切にしたいという考えが背景にあります。
ー なぜ5時間授業が多いのでしょうか?
松本先生:習い事だけでなく、友達と遊ぶ時間や自分で過ごす時間も大切にしたいと考えているためです。あわせて、教員の働き方改革の面もあります。子どもたちが下校した後に時間を確保することで、翌日の授業準備や子どもたちの情報共有、必要に応じた保護者への連絡などを、落ち着いて行えるようになります。その結果として、より質の高い教育を子どもたちに提供できると考えています。
6時間授業が多いこと自体が良くないというわけではありません。古賀市では、子どもたちのライフスタイルや教員の働き方も含めて考えたうえで、この形を選んでいます。また、長期休暇を短くすることについては、暑い時期の学校生活を心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、古賀市の小学校では各教室にエアコンが設置されており、快適に過ごせる環境が整っています。こうした設備面も、この取り組みを支える一因になっています。
ー 学習時間はどのように確保しているのですか?
松本先生:夏休みや冬休みを少し短くすることで、年間の授業時間を確保しています。10年ほどかけて段階的に進められてきた取り組みで、現在は定着しています。こうした取り組みは、子どもたちや保護者の状況にも配慮しながら、少しずつ進められてきたものです。現在では、古賀市の教育環境として定着しています。
地域とともに広がる学びのかたち
ー 地域との関わりについて教えてください。
松本先生:地域の方のサポートは本当に大きいです。登下校の見守りや授業への協力など、日々さまざまな形で関わっていただいています。また、修学旅行前に戦争体験のお話をしていただくなど、学校に来ていただく機会もあり、学校の内外で支えていただいています。
ー 具体的にはどのような場面で地域の関わりを感じますか?
松本先生:たとえば生活科の学習では、2年生が施設見学に行きますが、学年全体で同じ場所に行くのではなく、地域の方々が「少人数のグループでも受け入れますよ」と言ってくださっています。そのおかげで、子どもたち一人ひとりの関心や課題意識に沿った見学ができています。
また、登下校の際にはボランティアの見守り隊が日常的に活動してくださっており、子どもたちの安全を支えています。さらに、水泳の授業も古賀市ではすでに民間委託が完了しており、専門的な指導を受けられる環境が整っています。
また、週1回程度、ボランティアの方による朝の読み聞かせもあります。本校の読書推進に欠かせない活動です。
こうした取り組みの背景には、地域や外部との連携があります。地域の支えの厚さこそが、古賀の教育を支える大きな特徴のひとつといえそうです。
学童+「放課後子ども広場」。放課後にも“居場所”がある
ー 放課後の環境について教えてください。
松本先生:共働きのご家庭が多く、学童の利用も増えています。古賀市では学童が校内にある学校が多く、本校も校舎内にあります。
それとは別に「放課後子ども広場」という取り組みもあります。これは10年ほど前に実行委員会が立ち上がり、地域の方々が中心となって運営してくださっているものです。放課後に参加したい子どもたちが自由に学校に集まり、校内や運動場で思い思いに過ごせる、もうひとつの居場所となっています。毎日ではなく曜日は決まっていますが、子どもたちの自主性に任せながら、地域の方が見守ってくださっています。下校時間が比較的早い分、放課後の時間が長くなりますが、その中で安心して過ごせる場所があることは、子どもたちにとって大きな支えになっていると思います。
ヤギがいる学校。地域とともに育てる“命の学び”

ー 古賀東小学校ならではの特徴はありますか?
松本先生:ヤギを飼っていることです。校内にヤギ小屋があり、2年前から始まった取り組みです。


ー ヤギの世話はどのように行っていますか?
松本先生:PTCAを含む有志の方による「ヤギサークル」が中心となって世話をしています。教職員だけでは難しい部分を、地域の方に支えていただいています。子どもたちも飼育委員会として関わっています。
ヤギの存在は、子どもたちが命を身近に感じるきっかけにもなっているそうです。
“子どもにとってどうか”を軸にしたまち・古賀

ー 古賀市の教育の強みはどこにあると感じますか?
松本先生:働き方改革や授業のあり方など、全国的に見ても先進的な取り組みを進めていると感じています。実際に、市内の小中学校には視察や取材も多くお越しいただいています。ただし、こうした取り組みはあくまで手段であり、目指しているのは子どもにとってより良い教育を実現することです。授業時間のあり方や外部連携も含め、すべては子どもに質の高い教育を保障するためのものだと考えています。何かを変えること自体が目的ではなく、その先にいる子どもにとってどうかを考えることが、古賀市の教育の土台にあると感じています。
ー 古賀というまちには、どのような魅力がありますか?
松本先生:自然が豊かで、海や山、田畑が身近にある一方で、JRや国道3号線が通っていて、福岡市にもアクセスしやすいところが魅力だと思います。もう一つは、「人権のまち」であるという点です。人権教育には市としても力を入れていて、学校現場でもすべての小中学校で基盤として大切にされています。本校でも学校経営の基盤に据えています。分かりやすく言うと、「私もいい、あなたもいい」という考え方ですね。多様な人が互いを認め合いながら、安心して過ごせる空気が、このまちにはあると感じています。
子どもを中心に、学校・家庭・地域がつながる
ー 今後の教育について考えていることはありますか?
松本先生:古賀市では、すでにさまざまな取り組みが進んでいます。その中で、子どもが主人公となる教育を、これからさらに進めていくことが大切だと考えています。学校だけでなく、家庭や地域とも連携しながら、子どもたちを一緒に育てていく環境を、今後も充実させていきたいと思っています。
一方で、ここまで取り組みが進んでいるからこそ、その先をどう描いていくかは簡単ではありません。だからこそ、改めて基本に立ち返ることが大切だと感じています。
それは、子どもが主人公であるということです。学校だけで抱え込むのではなく、家庭や地域とともに子どもを育てていくこと。その環境を、これからも大切にしていきたいと考えています。
古賀東小学校の取り組みから見えてきたのは、「子どもを真ん中に置く」というぶれない考え方でした。授業時間の工夫や放課後の居場所づくり、地域との関わりの深さ——その一つひとつが、子どもたちの日常を支えています。
学校だけで完結するのではなく、家庭や地域とともに育てていく環境があること。それこそが、古賀の教育の大きな特徴といえそうです。子どもが自分らしく学び、過ごせる場所として。古賀は「暮らし」だけでなく「育ち」の面でも安心して選べるまちであることが伝わってきました。
子育て世代にとって、「どんな環境で育つか」は暮らしを選ぶ大きな基準のひとつ。古賀には、その選択にしっかり応えてくれる理由がある——そう実感できるまちでした。

